本研究室が主導して行った研究のうち、論文として発表したものを紹介します。
- Moriguchi, K. (2023) Towards the globally sustainable use of forestlands and wood resources: Estimating fair timber price deriving supply curves in a proven stable state. Resources, Conservation and Recycling 199: 107285: 日本では長年、造林・育林作業コストに多額の補助金が出ている一方、スギの原木価格などは世界的にも低い、と指摘されていた。補助金によりコストが実質的に減少すると、供給曲線が下方に移動し、供給量は増加して価格は低下する。補助金制度が普遍化すると、その状況が固定化され、原木価格は低いままになってしまう (ただし、これによって日本の木材生産が維持され、結果的に他国・他地域の森林利用圧を緩和していると考えられるので、単純に悪とも言えず、難しいところである)。そこでひとまず、「補助金がない状況で所与の年供給量を永続的に確保しうる原木価格」を求めた。また、この原木価格と実際の原木価格のギャップを、炭素固定効果を考慮することで埋めるための炭素価格の推計方法を考えた。
- 田淵賢汰, 工藤豪士, 守口海 (2023) 高知県室戸地域におけるウバメガシの利用可能直径別立木幹材積式の作成. 日本森林学会誌 105(4): 123-128: 高知県室戸市の民有林にて、サイズの異なるウバメガシ9本を伐倒調査して、胸高直径と樹高を測定すれば「1本の立木から、所与の直径以上の幹がどれくらい採れるか」を算出できるモデルを作成した。ただ、9本しかできていないので、他の場所でもデータを集めた方が良さそう。
- Moriguchi, K. (2023) Estimation of fractal dimension of trees using LiDAR point data with sequential data decimation. Remote Sensing of Environment 295: 113722: レーザー点群から樹木のボックスフラクタル次元を正確に推定するための計測方法を、シミュレーションにより明らかにした。結論としては、「精度・点群密度とも最高レベルの地上レーザーを使い、さらに点群を逐次的に間引いていって、推計結果がほぼ変化しないことを確かめる」という方法が推奨される。実のところ、逐次的に点群を間引くことで点群密度の不足によるバイアス情報を得て、それにより点群が十分な状態を推測して推定を改善する方法を考案してみたのが元々の主眼であった。この方法はいまいち使いどころが難しい、と結論したが、アイデアが買われたようで、無事出版に至った。
- Moriguchi, K. (2023) Towards sustainable and accountable subsidy design: Identifying effective subsidisation systems for forest stands. Journal of Cleaner Production 414: 137539: 「効率的」な造林・育林補助金制度とはどのようなものかを、4つの候補制度の性質の比較により解析した。「最小限の政府支出で必要な供給量を得る」ための制度を単純に設計してしまうと、いろいろ不都合が起こる。主な問題は、政府と補助受給者の間に意図のミスマッチが存在するために、元々期待された効率性が発揮できないことである。意図のミスマッチを解消した制度が、Moriguchi et al. (2017) の方針 (1つ下・4つ下の研究の大本) であり、また、(仮定された条件では) それ以外に同様の補助制度はないことを示した。ついでに言うと、Moriguchi et al. (2017) の中での説明が正確でなかったことも指摘している。
- Moriguchi, K., Shirasawa, H., Aruga, K. (2023) Accelerating forest stand selection for subsidization using neural networks. Computers and Electronics in Agriculture 205: 107595: Moriguchi (2021) の方法を、多様な林分がある現実的な状況で使おうとした場合、計算量が非常に大きく使いにくい。そこで、ニューラルネットワークを汎用関数近似器として用いることで、計算量の削減を目指した。元々は論文中で「Indirect」法と呼んでいる方法を採用したかったが、精度に問題があったため、代替手法である「Direct」法を考案して実用的な精度を得た。これにより、全国規模のGISデータを用いた、詳細な分析や計画立案を行うことができるようになった。
- 池添厚亮, 守口海 (2021) 高知県室戸市におけるウバメガシのカシノナガキクイムシ被害傾向. 日本森林学会誌 103(4): 273-278: 高知県室戸市のある民有林で11プロット・合計560のウバメガシ株を調査し、ウバメガシがカシナガに穿孔害を受けるパターンをロジスティック回帰により解析した。また、典型的な枯死症状 (葉の褐変) を起こして株ごと枯れた調査木がなかったことを報告した。※調査地に典型的な枯死症状を呈した個体は複数見られたが (所感としては道沿いが多い)、割合としてはかなり少ない。
- Moriguchi, K. (2021) Developing reliable and fast simulated annealing for stand-level forest harvesting schedule with virtual dimensionality reduction. Computers and Electronics in Agriculture 191: 106494: 最適施業体系の探索手法の改良版。Moriguchi (2020) の方法の頑健性に一定の保証が得られたため、それを踏み台にして、今度は伐採候補林齢も変数として、計算速度の向上や柔軟性の向上を目指した。なお、最適な伐採林齢・間伐強度だけでなく、最適な植栽密度も同時に探索できるようになった。
- Moriguchi, K. (2021) Identifying optimal forest stand selection under subsidization using stand-level optimal harvesting schedules. Land Use Policy 108:105674: 造林・育林補助金制度の下で、所与の供給量を持続的に確保しつつ木材生産林分を選定する手法を提示した。以前発表した手法は表計算ソフトで瞬時に計算できるものの、間伐収穫や収穫間伐への補助金を考慮できないといった制限があった。本論文では手法を一般化し、これら既知の問題を解決した。一方、一般の場合は計算に要する時間が大幅に増えることが課題。
- Moriguchi, K. (2020) Acceleration and enhancement of reliability of simulated annealing for optimizing thinning schedule of a forest stand. Computers and Electronics in Agriculture 177: 105691: 林分レベルの最適施業体系の探索手法を、GPU (グラフィックボード: 元々は画面表示用のPCパーツであるが、近年は科学技術計算に応用される) を使って高速化した。また、以前発表した手法ではうまく行かないパターンを発見し、その改善手法を示した。その結果、全てのベンチマーク問題で、総当たり法より良い解 (伐採スケジュール) を返すようになった。
- Moriguchi, K. (2020) Estimating polymorphic growth curve sets with nonchronological data. Ecology and Evolution 10(17): 9100-9114: 従来、非時系列データから「多型」の地位指数モデル (森林科学分野では林分毎の平均樹高の成長曲線群をそのように呼ぶ) は推定できないとされていたが (試みた人はいたが、合理的な方法がなかった)、シンプルな最尤推定で非時系列データから「多型」の成長曲線群が推定可能であることを示した。なお、伐期のバイアス (地位指数が高い林分は伐期が短い)の問題には対応できていない。日本でよく用いられているガイドカーブ法も同じ問題がある。
- Moriguchi, K., Ueki, T., Saito, M. (2020) Establishing optimal forest harvesting regulation with continuous approximation. Operations Research Perspectives 7: 100158: 非線形なモデルも導入しながら地域レベルの長期的な伐採・更新計画を立案する手法を提示した。線形なモデル (直線・平面など) だけで構成されるモデルは大域的最適解 (「真」の最適解) が実用的な時間で見つかる保証があるが、非線形なモデルを入れると特別な場合を除き、その保証がなくなる。そこで、変数を大幅に減らす手法を考案した。
- 2019年以前: researchmap
